聞得大君の「お新下り」(就任式)の中心的な儀礼「お名付け(なーじきー)」は、
斎場御嶽の大庫理(うふぐーい)で行われた。国王のオナリ神(守護神)としての認定式。 その大庫理で、ちょうど1ヶ月前、祈りを捧げるウチナーンチュの女性たちを見た。 瓶子(ビンシー。お線香、盃、米、塩、お供え物を収納する木箱)を運んできたのか、 キャリーバッグが傍らに。「ウートートー(尊い神様)」と祈る声がする。 好きなウチナーぐち(方言)。私のブログネームでもある。 さて「尊い神様」とはこの場合、どの神のことか。それは沖縄から東京に帰って からも胸にくすぶり続けた疑問だった。 大庫理→寄満→ナーワンダーグスク→大里の方位。その祈りの先に座す神とは? 『琉球国由来記』によれば、聞得大君が祀る神は「御日御月の御前」と「御火鉢の御前」…。 すると、何日か前、語り部から電話があった。 「チチンガーです! チチンガーにおられる神が“月の神”だと思い出しました」 チチンガーとは、大里グスクに隣接する井戸。漢字では「包井」と書く。 木立の向こう側が大里城趾、手前がチチンガー。そこに月の神様がいたとは。 「チチンガーの本来の意味は“月の神”だと、昔は言われていたんです」 「では聞得大君をオナリ神と認定したのは“月の神”ですか?」 「はい」と、語り部。 そういえばチチンガーを覗くと、紙垂(しで)が下がっていた。 沖縄では今でも井戸や川泉は聖所として尊ばれるが、紙垂を見たのは初めて。 チチンガーは地下8メートルの位置にある掘り井戸。石段を43段も降りる。 築造は14世紀頃と推定されているとか。説明板には次の一文があった。 「井戸が城壁外にあると清水が沸き出し、城内に取り込まれると水が枯れたとのこと」 島添地方を支配した大里按司にも独占できなかった、神の棲む井戸…。 井戸まで降りる途中で振り返ると、まさに城壁のような石積みの佇まい。 語り部は続けた。 「“月の神”を久高島では、チチヤ大主(うぷぬし)と呼びました。 何か久高島の本で調べてみてください。記録があるはずですから」 確かに。比嘉康雄氏の著書『神々の原郷 久高島』にそのくだりはあった。 「チチヤ大主 大里家から出自。月の大主と言われている。本来は女神であるが、 1976年頃まで男性が神職を務めていた。」 月の神、本来は女神。久高島→斎場御嶽→ナーワンダー→大里という東西ライン に祀り崇められていたのは、太陽と月。陽と陰。男神と女神だった。 聞得大君と国王というツートップによる神託政治、そして「日月信仰」だったであろう 古代琉球の祈りの原風景をここに見る思い。 聞得大君が月の神に祈る聖所は、東方の聖地・斎場御嶽の「大庫理」。 国王が東方の朝日に祈るのも首里城正殿2階の大庫理。同名で方位的に向き合う。 昨年の夏至の朝日(於・那覇市の瀬長島ホテル)。ところで、沖縄のホテルでは、 夕陽の見える西側の部屋が人気らしい。朝日の昇る東側は売れ残るのか格安。この日もそうだった。
by utoutou
| 2014-05-26 10:40
| 天孫氏
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