天祖・皇祖・人祖〈2〉神歌の暗号

天祖を探すという、とんでもない難題が降りかかったが、
語り部から回答を示される前は、自力で解決しようとしていた。
そして、謎解きの手がかりを、イザイホーを興した久高島の始祖ファガナシーに求めた。

約650年前の英祖王統時代。従兄弟のシラタルと刳り舟で久高島に渡り、
島建てをしたと伝わるミントングスクのひとり娘。その母の実家が屋号アマス家だという。

ファガナシーの母方が屋号アマス家ならば、そして、アマスが「天祖」の意味ならば、
イザイホーの興りは、天の御祀りだったのか。
そこまで思い至って初めて、ああ…と、気がついた。

語り部の話は、イザイホーをより理解するためのヒントだったのだろう。
「王が太陽の化身と崇められるようになってから、ニラーの神々は消えたが、
太陽の神・東大主(あがりうぷぬし)と、月の神・チチヤ大主(ちちやうぷぬし)
は一対神として崇めら、そのティルル(神歌)がイザイホーのなかに残っていた」

ただし、ヒントから先は、自分で探らなければならない。
こんなとき、頼りになるのは比嘉康雄氏の著したイザイホーに関する何冊かの本。
イザイホーに関する著書は数多あるが、外間ノロ・ウメーギ(補佐役)の西銘シズさん
に聞いた話と照合した比嘉氏の取材記録は、ディテールの確かさで他を圧倒する。

ところが、比嘉本に浸って片っ端からティルルを拾い読みしたが、見つからない。
それもそのはず、4日間にわたるイザイホーの最後の儀式で、それは歌われていた。

「グゥキマーイのティルル」。
グゥキは「桶」、マーイは「廻る」という意味だそうだ。
神酒(みき)桶の周囲を神女たちが舞う、イザイホーを締めくくる儀式に歌われる神歌。
語り部に聞いた通り、太陽と月の大神様に、そして外間ノロの始祖に、終了を報告する内容。

アガリトトゥウプヌシ(太陽の御神様)
チチヤトトゥウプヌシ(月の御神様)
ムムトゥマール(久しく)
ティントマール(めぐってくる)
イザイホー ナンチュホー
クダカシーガ(久高神人が)
ハイティメール(拝んでいる)
ハンアシャギ(神アシャギ)
ハンガマミヤ(神の真庭)
マチヌシュラウヤサメーガ(月の御神様が)
タボーチメール(管掌している)
タルマミキ(神酒)
ピザイダチ(左に抱き)
ニギリダチ(右に抱き)
サシプターラ(ヌルらは)※中略

ティルルの解説として、外間ノロウメーギ、外間ノル、久高ノロの3名が
「グゥキマーイのティルル」を歌い、他の神女たちはこれを復唱するとある。
最後の歌詞(現代語訳)は、
「ナンチュたちよ、百二十歳までも、御嶽が栄え、森が栄え、息子が栄え」

ニライカナイへと戻り行く神を見送り、一世一代の就任式を無事終え、
一人前の神女となった女たちに神酒を振る舞われた島人たちが、子々孫々の繁栄を願う…。


ノロ、ウメーギ、ハタ神たち…先輩神女たちが右手に持つ、ンチャティオージ(大扇)。これは
久高島資料館にあるレプリカ(水彩)。表に赤い太陽と鳳凰、裏に白い月と牡丹の花が描かれている。
a0300530_14243.jpg



グゥキマーイ。
祭場の中央には、クバの葉を被せた神酒(みき)桶が据えられている。
引退した神女や神人らが正座して見守るなか、白い神衣姿の神女たちは、
左足を半歩進め、右足を引きつけるといった動作を繰り返しながら、入場したという。
以前、円舞は蛇がトグロを巻く擬きだというを書いたが、まさにその通りの動き?
a0300530_115545.jpg
 
(比嘉康雄著『神々の古層 主婦が神になる刻 イザイホー[久高島]』より、2度目の拝借


ティルルには、謎のフレーズがあった。曰く…
「チチヤトトゥウプヌシ(月の大神様)が、神酒桶を掌握している」
これは、久高島が日本の神々の原郷であることを示す暗号だったと思う。

ともあれ、古代天孫氏王朝に繫がる拝所・チチンガーの月の神が、
消えることなく琉球王朝の国家的神事で暗黙のうちに歌われ、現代にまで続いていたのである。
by utoutou | 2014-07-23 09:27 | 琉球の神々 | Trackback | Comments(2)
トラックバックURL : http://mintun.exblog.jp/tb/20015157
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
Commented at 2014-07-27 23:33 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by utoutou at 2014-07-29 10:11
三穂田に稲を植えた稲作の祖は、アマス・安里・大前の3人と言われていますね(南城市HP、無形文化財、親田御願の記事中にも出ていたと思います)。上十二代百名米主とはその大前のことで、お宮は子孫の方による建立と聞いています。
<< 天祖・皇祖・人祖〈3〉イザイホ... 天祖・皇祖・人祖〈1〉神々の原郷 >>