天祖・皇祖・人祖〈3〉イザイホーの月と蛇    

古祭イザイホーを締めくくる「グゥキマーイ(神酒桶を廻る円舞)」のティルル(神歌)。
そこには古代日本史を解く暗号が潜んでいると考えていたとき、絶好の書に出会った。

Amazon.co.jp の古代日本史ジャンルで上位にランキングされるベストセラー。
『月と蛇と縄文人 シンボリズムとレトリックで読み解く神話的世界観』
(大島直行氏著、2014年、寿郎社刊)。大島氏は医学博士、北海道考古学会会長。
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妊婦と土偶が並ぶカバー写真とタイトルは意味深で、その印象に違わず、
縄文時代の人々の心理に肉薄する切り口は斬新明快。一気に読み終えた。

縄文人は月をどう見ていたか。私が注目した心理とは、次の3点。
・毎月3日間、太陽に隠れ闇を招く月は「不死と再生」のシンボルだった
・月からもたらされる水(精液)で、女性は身ごもると考えられていた
・顔が上を向く土偶や、壷を抱える縄文土器は、「月の水」を乞い願う姿

これらを鍵として「グゥキマーイのティルル」を読むと、意味がスルスルと分かる。
(※ところどころ現代語意訳)

「グゥキマーイのティルル」
〜アガリトトゥウプヌシ(太陽の御神様)
 チチヤトトゥウプヌシ(月の御神様)
 久しく、めぐってくる、イザイホー、ナンチュホー
 久高神人が、拝んでいる、神アシャギ、神の真庭
 マチヌシュラウヤサメー(月の御神様)が管掌している、神酒
 左に抱き、右に抱き、ヌルらは ※中略
 ナンチュたちよ、百二十歳までも、御嶽が栄え、森が栄え、息子が栄え〜

実は私は、ティルルの歌詞のなかで、次の3点を不思議に思っていた。
・月の神様がなぜ2柱(上の赤文字)いるのか?
(実際、久高島では月の神をチチヤ大主と呼び、同名の男性神職者がいた。
 マチヌシュラウヤサメー(月の女神)の霊力は、代々外間ノロが継いだ)
・マチヌシュラウヤサメーがなぜ、神酒桶を管掌するのか
・ヌル(ノロ)らは、何を左に抱き、右に抱きしたのか

大島氏の書を拝借すれば、チチヤ大主(男)は月の水をもたらす神、
マチヌシュラウヤサメー(女)は月の水を待ち受ける神(赤字が対応)と考えることができる。
そして古来、神女たちは壷を脇に抱え、月の水を待ちながら礼拝した。子孫繁栄を願って。

桶の中の神酒は、かつて女性たちの唾液で造る噛み酒だったと、久高島の古老に聞いた。
噛み酒の元になる麹を発酵させ育むのもまた、月の引力。
イザイホーで誕生した神女たちの最初の仕事が神酒作りだったことは、容易に想像がつく。


現代のミキは「飲む極上ライス」。スーパーやコンビニで見かけるノンアルコール飲料。
見た目と喉ごしは濃い甘酒。沖縄の大手スーパー・サンエーのオンラインショップでも買える。
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ところで、神女たちが円舞する写真はイザイホーを代表するものとして有名だが、
ではなぜ、円舞のステップが、蛇の動きを模したものだったのか。
それも、大島氏の書で読み解くことができる。
縄文の人々は、男根に似た蛇を、月の水を運ぶ使者と見なしていたという。
ゆえに神女は蛇の動きで舞い、神酒桶にクバの葉を被せ、クバの葉製を杓子を使った。


イザイホーの主祭場だった久高島殿。
昨夏の「テーラーガーミ(太陽の祭り)」の夕方、子どもたちの舞踊が披露されていた。
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王を太陽神と崇める時代になっても、久高島では月の神を崇めた。
子孫繁栄、五穀豊穣の神として。夜を司る神として。
太陽に隠れる闇(死)があるからこそ、月は生まれ変わり(不死)太陽がまた昇る(再生)。

月と蛇の暗喩がヤマトでは土偶だったとすれば、久高島では祭りに隠されていた。
またそれは、天祖・皇祖・人祖を考える大きなヒントになる。
by utoutou | 2014-07-27 07:16 | 琉球の神々 | Trackback | Comments(0)
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