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沖縄の天女伝説 ⑭ 大物主神と君真物(きんまむん)と大国家(でーこくや)

何日か前、沖縄の鍛冶神
ハ二マンガナシー(=カニマンガナシー)に
ついて書いた後、ふと思い出すことがあった。
それは首里城正殿の2階南東の神壇に、
聞得大君が祀った香炉(3柱の祭神)のこと…。
(過去の記事はこちら

『女官御双紙』(1710年頃)によれば、
その聞得大君が司祭する「おせんみこちゃ」
と呼ばれる部屋に祀った神は、
1. 御筋の御前(みすじのおまえ)
2. 御火鉢の御前(おひばちのおまえ)
3. 金之美御筋の御前(きんぬぬびうすじのおまえ)

それは、どのような神だったのか…。

かつて伊波普猷氏は〈1.〉祖先の霊〈2.〉火の神、
〈3.〉金属の神と説いた。また、
折口信夫氏は〈3.〉のみ伊波普猷氏とは意見が異なり、
「金之美御筋の御前」は「穀物の神」と解いた。なぜなら、
「かね」とは『おもろ』で穀物の堅実を祝福する常套語だからと。

私などはいまこう思うのだ。その神は…両氏の見立てを
合体させたようなかたちだが、金属の神であり穀物の神。
つまり、聞得大君の崇めた「金之美御筋の御前」とは、
稲荷大神と同じ神格の神様ではなかったか…。

稲荷大神とは、日本各地の稲荷神社に
祀られておなじみの倉稲魂(ウカノミタマ)のこと。
亦の名は豊受大神(伊勢神宮外宮に祀られる)
といい、元伊勢のある丹後でその神を古代に祀ったのは
天女と呼ばれた豊受姫であることは、最近も書いた。
その天女とは、産鉄の母神であったとも。

聞得大君が崇めた神は、その古代日本の母神と
同じ神格を内包した神だと、考えられるのである。

もちろん、久高島の「君の泊(港)」に坐す
アカララキ(アラハバキ)も同じ神格の女神だと思う。


↓ こちら首里城・円鑑池にある弁天堂と天女橋。
建造は1502年。
朝鮮王からっ送られたお経を納めるお堂だったが、
1609年の薩摩侵攻で崩落。1621年に再建された
とき、新たに祀られたのが弁財天象だったという
ことから、弁天堂と命名された。
これも沖縄戦で破壊されたが、1965年に復元された。
沖縄の天女伝説 ⑭ 大物主神と君真物(きんまむん)と大国家(でーこくや)_a0300530_13431626.jpg



さて、前置きが長くなったが、大物主大神の話である。
大物主を祀る神社といえば、日本最古の大神神社(奈良県)
で、大己貴神=大牟遅神=金穴神(産鉄神)だと前回書いた。

大物主という神名の由来の核心は「物」にある。
物部氏の「物」であり、『もののけ姫』の「物」
であり、武器兵器を作る「物」という意味もあるが、
そのすべてに、大きな霊力(=物)が秘められている。

霊力の部分を端的に表すのが、沖縄に残る
「物(むん)」の一字である。

君真物(きんまむん)とは、聞得大君に依り憑く神
であり、海底の宮を住処とする琉球古神道の最高神。
国王は君真物の守護なくして、真の国王たりえなかった。

その深意は「大物主大神にある」と、語り部は言う。

「大物主は、上古代、沖縄からヤマトへ上ったと思います。
銘苅港川原や、大里の拝所・天代大世にその神影を見ます。
つまり、大物主とは、渡来した古代産鉄族の首長であり、
大国主を束ねていた大王(おおきみ)だったのでしょう」

大国主の大王…。すかさず、私は聞いた。
「ということは、クナト大神ではないですか?」
「そうです。大物主は出雲神族の大王、つまり、
龍蛇族である富の一族を率いて渡来したクナト大神のこと」
「で、その末裔は残っているんですか?」
「大物主の裔は聞きませんが、大国主の末裔なら、
大国家(でーこくやー)として、天女伝説に出て来ますよ」

そう言えば、与那原・親川にも天女伝説が残っている。
そして、天女と結婚した男は大国家。
さらに、話は続き…。
「あの奥間大親と天女の間にできた察度の子
である崎山子(さきやましー)が、その大国家に養子に
なったという話が語り継がれています」



与那原の親川(うぇーがー)の拝所。
聞得大君が順はイした東御廻りの参詣場所のひとつ。
ここにも天女伝説と大国家の名が残っている。
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与那原出身の画家・故野津唯市氏による『天女』。
玉城・山の茶屋 楽水のキャラリーに展示されている。
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大国家の名が残るのは、与那原だけではない。
南風原の宮城(みやぐすく)に伝わる
もうひとつの天女物語の主人公(男)も、
大国子(でーこくしー)と呼ばれていたという話だ。

大物主、大国家、羽衣、古代産鉄、龍蛇族…。
これまで沖縄では謎とされていたモチーフのすべて
が、どうやら「天女」で繫がっている。

やはり、大物主神は、
古代琉球からヤマト各地へと東遷したのだったか…。




by utoutou | 2015-09-26 20:43 | 天女伝説 | Trackback | Comments(2)
Commented by at 2015-09-27 18:00 x
utoutoさん、こんにちは!ここで大物主ですかー。面白いですね(≧∇≦)去年久高島に縁あって行って、その後玉城もまわって、その中で「海流ハイウェイベイビーズ」という言葉が頭に浮かんできて離れなくなりました(笑)29歳まで小説書いてて、才能ないやと書くのやめたのですが、沖縄から東京に帰る間際にも不思議なことがあって書かなきゃいけない気がして書き上げたのですが、結果は賞に見事に落選(笑)私の思い込み違いだったのですが、作品に久高島の富おばあという人がでてきます。何気なくつけた名前ですが、その後出雲の歴史を調べてて富一族が出てきてビックリ!!死んだはずだよお富さんという歌に隠されたミステリーとか唖然。しかもお富さん、作曲してるの沖縄の方なんですよね。知った時にはめまいがしました(笑)何だこれわ!と。何か富一族が古代から訴えかけてくるものがあるのでしょうか?小説の取材に去年出雲に行きましたが、まず富神社に行きました。また偶然帰り道も富神社の前を通ったので御参りしました(≧∇≦)いやーミステリアスで面白いですねー。長文失礼しました!
Commented by utoutou at 2015-09-29 17:24
> 寅さん
はい、大物主です。笑
その大神神社の御祭神は、いったいどこから生まれたのでしょうね。
いわば「大琉球」ではないかと思いを巡らせています。

ところで、小説を書いておられたとか。どんどんまた書いてください!

お富さんの作曲家が沖縄の方とは知りませんでした。
意味ありげな詞だなとは思っていたのですが…。
私が不思議に思っているのは、沖縄になぜ富とつく地名が多いのかです。
たとえば、屋富祖、富祖崎など。もしや富族に関係するのでは?
クナトに似た地名もあり、もっと調べたいと思っているところです。


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