久高島八月祭り(テーラーガーミ)で男たちが集落をお祓い しつつ歌う神歌『赤椀の世直し(ゆのーし)』。世直しとは 神に神酒(ウンサク)を供えるための木のお椀を指すというが、 歌詞にあるその世直しの出所が、私には長年の謎だった。 〜サウルカラクダユル ヘイ(サウルから下った) アカワンヌユナワシ ヘイ(赤碗の世直し) ヤマトカラクダユル ヘイ(ヤマトから下った) クルワンヌユナワシ ヘイ(黒碗の世直し)〜 (※全歌詞と祭りのレポートは こちら に) さあ、世直し(酒椀)に神酒を注いでお供えしよう…と。 その世直しが下された元とは、久高島に渡来した先祖の故郷 らしいが、「サウル」と「大和」とは一体どこのことか? 祭りで歌った経験のあるオジイは言った。 「ソウルは中国、ヤマトは大和(本土)のことだよ」と。 ところが、この度、語り部が視た世直しは違った。 「いま初めて視ました。赤椀は赤い琥珀でできている。 琥珀だから、光線によって黒椀にも見えたわけですよ」 一瞬、息を飲んだほど、意外な話だ。 「赤椀と黒椀の2種類があるわけじゃなかったのか…」 語り部も、自ら霊視したものに少し興奮しているようだ。 「渡来の歴史を隠して神を祀っていたのでしょうね…」 赤い琥珀で作られた、世直し。 そう聞いて思い出すのは、何年か前に観た 『草原の王朝〜契丹〜美しき3人のブリンセス』展である。 印象に残った遺物に、複数の赤い琥珀の装身具があった。 ↓ 図録から11世紀前半の王の首飾り写真を拝借。 解説文によれば、龍や魚や蓮華を浮った珠を繋いだもの。 赤琥珀を好む傾向は「中原」の民、つまり漢民族にはなく、 それを珍重するのは契丹の王族の特徴ということだ。 また、赤琥珀は契丹領内の産物とも考えられるらしい。 この材質で作られたのが、赤椀の世直しか…。 と呼ばれた、ユーラシア大陸の先住民たちの立てた国は、 契丹古伝によれば東大神族(しうから)。その民は赤を珍重した。 いっぽう、アカル姫は太陽を思わせる赤い瑪瑙玉の化身。 その母は昼寝して陽光にホトを射されて妊み、赤玉を生んだ。 それを思えば、赤椀はアカル姫の象徴として相応しい。 アカル姫が東大神族の流れにいるならば、あの神歌の 「ヤマト」とは、東大神族=倭(やまと)とも受け取れる。 「ところで…」と、語り部は言った。 「アカル姫の霊は東方(あがるい)の御嶽にいるようです。 久高島のアカララキ以外にも、同じ名の御嶽はありますか?」 しばらく考えて、「あーっ」と思いついたのが玉城城である。 玉城城の城内にある「天つぎ雨つぎ」(※由来記では雨粒天次)。 「その神名は、アガル御イベ・ツレル御イベといいます。 地元では、アガルイの御嶽と呼ばれることもある」 という訳で、翌日さっそく玉城城(南城市玉城)に登った。 この日は珍しく一の郭までに2組の見学客とすれ違った。 一の郭の丸い穴から城跡に入ると火の神(写真右)がある。 夏至の朝日は一の郭を通り、この香炉を射すと伝わる。 石積みの中が「天つぎ雨つぎ」こと「アガルイの御嶽」だ。
by utoutou
| 2017-07-09 12:57
| 瀬織津姫
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