久高島で蛇神を祀る〈1〉

神の島の君泊(ちみんとぅまい)にあるアカララキ。
アカララキ神の名を、なぜアラハバキ神の転訛だと考えるか
については、また改めて……。

さて、アカララキの神は、イザイホーにおいてはナンチュ(神女)
が籠る七つ屋の横に“出張”した。
「門番として」との説明は、外間ノロのウメーギ(補佐役)西銘シズさん
の話を比嘉康雄氏が記録したものだが、小川克己・川上幸子氏の著
『神の島 久高島』(1993年、汐文社)にも、以下の記述がある。


久高島のヤルイ(小屋)の西側にある小さなヤルイは「アカラムイ」
(アカララキの森)。力は強いが、気性の激しい神様なので、
この神を受けるナンチュはいません。そのためか、
ナナツヤーの中でも特別な扱いです。


アカララキ=門番。
語り部に聞いていみると、違う伝承があった。
「門の番」は「じょうのばん」と読むそうで、
魂の新生・転生・再生を司る創生神という意味だという。
そうならばと、思い当る話があった。

久高島に住むあるおじいは言った。
子どもの頃、おばあさんに連れられアカララキでお祈りをしたと。
おじい(祖父)が死にそうになった時のこと、
浜で広げた両手をおばあと繋ぎ、アカララキに向って立ち、
「おじいを助けて」「マブイ(魂)を抜かないで」と拝んだ。
すると、おじいは奇跡的に元気になったと。
逆に、アカララキに拝んでも治らない場合は諦めるしかないという。
「生命はアカララキが握っている」のだと。

イザイホーはアカララキの神なくしては成り立たなかった。
イザイホーとは神女たちが祖先霊を受け継ぐ「魂のリレー」。
祖霊を降ろし、身の内に再生して初めて「神女就任」となる。

「神女就任」の祝いが「朱リィキー」という儀式。
根神(にーがん,男性神役)から、頬に朱の刻印が押される。
そして、厳かに喜びの円舞が始まる。

朱リィキーの円舞(比嘉康雄氏著の前掲書より)。
こうした写真や、ビデオ映像で見る限り、
真円というより渦のような円になって舞っているのが分かる。 
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円舞は蛇がトグロを巻く様子の再現であると指摘したのは、
最後のイザイホーを取材した民俗学者の吉野裕子氏だ。以下引用。

祭りの中にいく度も二重の輪が形成されるのは
トグロを巻く蛇のゆるやかな動きの擬きであろう。
(『蒲葵と蛇と北斗七星と』1979年2月、沖縄タイムス、新聞連載)

日本の古代信仰について著書『蛇』(1970年、学生社)を残した
吉野氏ならではのイザイホー考察。その祭祀場である
久高殿にバイカンヤー(イラブーの薫製小屋)が在る意味は大きい。

イザイホーの祭場だった久高殿・御殿庭(うどぅんみゃー)。
左から、イラブーの薫製場であるバイカンヤー、神アシャギ、シラタル宮。
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神女たちはバイカンヤーの前で、いわば蛇神に見守られて円舞した。
吉野氏はこうも述べた(同紙)。「イザイホーは島の成女が、
人間の身でありながら蛇に昇格する儀式として見ることも可能である」

現在も、獲られたイラブーは、
バイカンヤーの裏にある長型の箱で薫製される時を待つ。
イラブーは1ヶ月以上も生きるという。王府時代、国王に献上された。
中を覗かせてもらったことがある。何百匹もの蛇が隙間なく絡み合い、
しかし休まずにうごめく様に、まさに不死の生命力を見る思い。

古くは、バイカンヤーにはシラタルの火の神が祀られていた。
戦後、「神様を薫製小屋で祀るわけにはいかない」とシラタル宮を建て、
移したが、そのことは逆に古代より蛇神と太陽神が同一視されていた証し。
久高島の始祖・シラタルは、その神霊を継ぐために島に渡ったのだ。


日没前、ミナーラ川を覗く。イラブーガマの近く。
ここにもイラブーは産卵のため現われる。
イラブー漁は旧暦6月末から10月頃、深夜から朝にかけて行われる。
昔は、冬の間も漁が続いたという。
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# by utoutou | 2013-09-02 08:06 | イザイホー | Trackback | Comments(0)