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夏を待つ、ヒコとヒメの海

天王ガナシーの一対神として祀られる、天妃大阿母加那志(あまみ・うふあむ・がなし)。
私が「ガナシー」と略記する「加那志」とは、神様を意味する尊称。
そうすると、この女神名の意味するところは、天の妃・偉大な・母・神・神女・神様。
天妃大阿母ガナシーとはこの上ない神格の女神、そして神女なのである。

思えば、琉球王朝の神女組織は「大あむしられ制」で、「あも」という公職があった。
この「あも」の祖型は、天妃大阿母ガナシーの「阿母」だと思う。「しられ」は「治られ」=政治。

神女組織は最上級から次のように、公職(女神官)が順に祭祀権を統括するシステムだった。
聞得大君→首里三平等(みひら=三地域)の「大あも」→各地の「あも」→各間切の「のろ」。
「大あも」こそは、琉球王朝における神託政治の要だった。

さて、天王ガナシーと天妃大阿母ガナシーには、さらに分かりやすい呼称もある。
御天父親ガナシーと御天母親ガナシー(うてぃんちちうやがなしー・うてぃんははうやがなしー)。
その神魂を受け継ぐのが、ヤマトでいえば、天御子(あまみこ)と日女御子(ひめみこ)。
いわゆるヒコとヒメである。
その神様ユニットが、単なる夫婦神ではなく、おのおの別神格として一対をなしていることは、
大里家拝所の神壇においても別々に祀られていることで分かる。(※天妃(あまみ)は「天美」と表記)

邪馬台国に代表される、兄妹で治める古代ヤマトの政治形態がヒコヒメ制。
その神籬(ひもろぎ)、そしてその古代母系社会のレガリア(象徴)が、
斎場御嶽の奥宮でイキガ(男)とイナグ(女)の巨岩で成るナーワンダーグスクだったと思う。
(※ナーワンダーとは「なでるわ」=守護霊力)
イナグナーワンダーグスクには、日巫女の鏡が祀られているらしいと書いたが、
日女御子とは日の巫女。御神体である鏡を操り太陽神霊と交わるのはごく自然な信仰のかたち。


ナーワンダーのお膝元・久手堅の浜。梅雨入り前の夏日、現代のヒコとヒメが遊んだ跡があった。
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斎場御嶽の外門ウローカー(現在は閉鎖)の足下にある「まちがち泊」も、夏前はひっそり。
まちがち=待つ港。聞得大君が海から斎場御嶽(右の山)に登る際は、この港に船を着けた。
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さて、久高島には天妃ガナシーに対する「神の島」ならではの特別な呼び方がある。
「あまみや・うやぬる(天妃・親祝女)」。神女たちに霊威を授ける天祖神。
その名は、久高島の秘祭イザイホーが始まる前、ノロによって謡われたティルル(神歌)に残る。

〜きゅうがとぅち のーち(きょうの刻を直して)
 なまがとぅち のーち(いまの刻を直して)
 うりぃてぃうり ぶさてぃ(降りて降り栄えて)
 うりぃてぃうり しなーち(降りて降り乗り移ります)
 てぃりないぬ ぬるがしじ(生まれ変わるノロの霊力)
 てぃりないぬ あまみうしじ(生まれ変わるあまみや・うやぬるの霊力)
 くんちゃさん にがんうしじ(国司ノロ、根神の霊力)〜

この神歌で、イザイホーの幕は切って落とされた。
白い胴衣(るじん)と衣(かかん)姿で、裸足のままの女たちは、
ノロ家の庭で円陣を組み、7回廻った後、祭祀場の御殿庭(うどんみゃー)へと駆け出した。
一列となり「エーファイ、エーファイ」の掛け声を響かせて。宇宙始源の霊力を受け継ぐために。


聞得大君の専用港・まちがち泊の南に隣接するコマカ島への船乗り場。夏はレジャー客で賑わう。
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こちら、まちがち泊の北に隣接する安座真サンサンビーチ。4月に海開きした後も平日はほぼ無人。
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安座真サンサンビーチから、近くて遠い久高島(左)を遠望する。神の海は穏やか至極。
このイノー(珊瑚の内海)を渉り、船に乗った聞得大君は浦廻り(聖地巡礼)をした。
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by utoutou | 2014-06-23 13:28 | スサノオ | Trackback | Comments(1)
Commented at 2014-07-12 07:15
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