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久高島の夜明け〈2〉地球を直せ…?

7年前の夏。2007年7月のことだった。
その夜、久高島を題材にした記録映画が、宿泊交流館で上映された。
私は映画を既に観ていたが、島でまた観ることを楽しみにしていた。

ところが、神人(かみんちゅ)のKさんが朝、道で偶然会うなり言った。
「きょうは夕方から御嶽を廻ることになっているようです」
「私が?」
「はい、ご案内します」
ちなみに神人とは、男女を問わず「神霊と交信する人」のことを指す。

Kさんは、私の知る限り、久高島でもっとも霊能力の高い男性の神人だ。
その人が御嶽廻りに案内してくれるというのだから、断る理由はない。
「映画を観る予定だったけど、お願いします」
言うと、神人は白い歯を見せて少し笑った。
「映画を観ている場合じゃないかもしれませんよ」


あの日、夕方から始まった御嶽廻りは、神霊に出会うための手順なのだと後に悟ったが、
そうした偶発的な経験を重ねた先に、今回の旅の「天祖探し」という謎解きが待っていた。
6月29日(金)の日の出は5時36分。久高島の北端・カベール岬の東方に昇った。
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ウパーマで暁光のなか海と向き合い、7年前の夜を振り返る。
夕方から3ヶ所の御嶽を回った後、神人は言った。
「最後に行く場所は自分で決めてください」
悩んだ末、島の地名を何ヶ所か挙げたが、神人は首を縦に振らなかった。
それではと夕食時間を挟んだ後、イチかバチか言った場所が、遂に当たった。
「ウパーマ浜」
「いいでしょう」

夜のウパーマ浜に出て、三日月や海蛍やイカ釣り船の灯りに見とれていると、
眼の前に地球が、ミラーボールのように回りながら降りてきた。
ややあって、神が舞い降りた。長く白い髭をたくわえた白髪の老仙人。
笑ってしまうほど分かりやすい姿だったが、笑うことはできなかった。
その声は硬く、空に響き渡るように大きかった。
「地球を救え」
「地球を元に戻せ」

困ったことになったと思い「人違いです」と言おうとした。
私は地球防衛軍の人ではないし、地球環境保護の運動家でもないです…。
しかし、神の声は収まらない。
「地球を直せ」

「なんて言ってますか?」
神人が横から聞いた。
「地球を直せって。意味が分からない」
神人は海に向けた横顔のまま言った。
「直せ…地球の原点から正せということですね」
「あ…歴史を?」
「そうです、正せと」
一応の合点がいくと、今度は神の頭上に字幕が流れてきた。
白い文字が降りてきて、次々と行替えされていき、昭和の日本映画のよう。

この轟々たる波の強さを伝えよ
この茫々たる海の広さを伝えよ
この遥々たる空の高さを伝えよ
この煌々たる星の輝きを伝えよ
この滔々たる時の流れを伝えよ
この炎々たる陽の恵みを伝えよ

…のような詞だった。随分と命令調だなと、恐怖に震え上がった。
ひ〜。声にならない悲鳴が口を突いて出た。私はやんわりと逃げ言葉を念じた。
分かりました、もう勘弁してください、これ以上は無理ですから。
すると神の姿は次第に薄くなって闇に消え、月が波間に揺れる現実が甦った。

「大丈夫ですか?」
神人は訊き、私は務めて平然と答えた。
「仕事のオファーみたいでした。何かを書けってことですかね」
言い終わり顔を上げると、神人はもう立って踵を返していた。


かなり明けた6時頃のウパーマ(岩場)。ここでは観光名所「鬼の洗濯岩」を連想する。
行ったことはないが、その宮崎県青島にも久高島に似た蒲葵(クバ)の植生があるという。
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by utoutou | 2014-07-06 23:33 | 久高島 | Trackback | Comments(0)
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