三輪山の西に坐す多神社(磯城郡田原本町)。 古称は、多坐弥志理都比古神社 (おおにます・み・しりつひこ・じんじゃ)。 祭神は、 神倭磐余彦尊(神武天皇)、神八井耳命、 神沼河耳命(綏靖天皇)、 媛御神(玉依姫命)、太安万侶。 主祭神と社名のテイストが違うのは、なぜか。 社名には、倭宿禰命となった珍彦(うづひこ) こと椎根津彦(しいねつひこ)の、さらに別な 神名が潜んでいると、私は考えるようになった。 珍彦の3つ目の亦名は、神知津彦 (かん・しりつひこ)というのだと、籠神社発行 の『元伊勢の秘宝と国宝海部氏系図』は記す。 神社名の「しりつひこ」と同じだ。 大神神社の祭神・大物主神とは饒速日命のこと だと私見を書いたが、その脈絡で言えば、 三輪山の祭祀を行ったのは、当然その末裔である。 倭宿禰命は丹後海部氏の祖神・彦火明命の第四代。 いっぽう、彦火明命は、物部氏の祖神 饒速日命でもあると、『先代旧事本紀』は記す。 神知津彦は、饒速日命の末裔でもあるわけだ。 さて、先日、三輪山に登った帰りに 3駅離れたJR長柄駅で降りて立ち寄ったのが、 大和神社(おおやまとじんじゃ、天理市新泉町)。 祭神は、日本大国魂大神(大地主大神) そして、八千伐大神、御歳大神。 日本大国魂大神(やまとおおくにたまのおおかみ) は、これもまた、彦火明命の亦名である。 祭主は、市磯城長尾市(しきのながおち)で、 倭宿禰の末裔と伝わる(神社HPのコラム)。 創建は、第十代・崇神天皇の時代。 当初、日本大国魂大神は宮中に天照大神と共に 祀られていたが、それを不安に思った天皇は、 それぞれ内親王・豊鋤入姫と渟名入姫に祀らせた。 ところが、渟名入姫は髪が抜けて痩せ細り、 司祭ができなくなったため、市磯城長尾市を呼んだ。 水の神(龍神)を祀る摂社・高龗(たかおかみ)神社。 末社。右から朝日神社、事代主神社、厳島神社。 倭宿禰命にしても、その祖神・彦火明命にしても、 なんだかとても亦名の多い神々だなと思う。 彦火明命には天御蔭命(あめのみかげのみこと) という亦名もあると『海部氏勘注系図』で見た。 さらに彦火明命には、こんな亦名もある。 賀茂別雷神(かもわけいかづちのみこと)。 記紀には登場しないが、京都・上賀茂神社の祭神。 いまこそ、あの長い神名を反芻してみよう。 天照国照彦火明櫛玉饒速日命。 彦火明命は、海部氏、物部氏、賀茂氏という 氏族の祖神を兼ねる神名だったと、改めて思う。 その妃が、市杵島姫命こと瀬織津姫である。
by utoutou
| 2016-06-27 22:22
| 瀬織津姫
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