ヒカゲノカズラ(日陰蔓)で連想するのは、 まず天岩戸神話の天鈿女命(アメノウズメ)。 素戔男尊の狼藉に怒った天照大御神が、天の磐戸 を閉じて籠もったとき、神々がこぞって祈祷する なか、天鈿女命は、磐戸の前にひっくり返した桶 の上で神がかり、天香具山のヒカゲノカズラを たすきに掛け踊った…というあの神聖なる祭具。 古社の祭祀では、巫女の草冠としても用いる。 石見国一宮・物部神社の鎮魂(みたましずめ)祭 では、天鈿女命に倣って巫女がヒカゲノカズラを 纏い舞う(写真を拝借再掲、過去記事はこちら)。 神話での天鈿女命はまた、天香具山の榊を 髪飾りにし、また茅纒の矛を手に踊ったという が、その身に纏ったのはヒカゲノカズラだった。 なぜヒカゲノカズラ? 重用された意味は、 鎮魂法が、魂の再生を願う祭祀だったからか。 それには、地球最古の植物だった(リンク) というヒカゲノカズラがもっとも相応しい。 誕生した時代はデボン紀、なんと3億7千年前。 いわばカズラは、太陽と最初に出会った植物…。 そして天岩戸神話は、太陽信仰を描いた神話。 まさに磐戸に閉じ籠もった天照大神を呼び出す には、日神を奉る祭祀でなくてはならない。 ヒカゲノカズラの「日陰」とは、現代での意味 とは真逆で、古語では「日光」のことであった。 ヒカゲノカズラは北半球に分布するツル性植物 で、日当りのよい場所の地面を這うように育つ。 (岡山理科大学旧植物生態研究所、↓写真も) 解説中、次のくだりに、目が釘付けとなった。 (ヒカゲノカズラは) 〜尾根筋や谷筋の鉱物質 が露出しているような場所に生育する(中略)。 この画像は、花崗岩地帯の小規模な土砂崩れ の跡地で撮影したものである。〜 鉱物質の露出する場所…そして、花崗岩地帯。 まさに六甲山は花崗岩(御影石)の山…。 ところで、語り部はそもそもどんな脈絡で、 「ヒカゲノカズラ」と口走ったのだったか? きっかけは、芦屋神社に祀られる小野猿丸だ。 祀られる神あるところに祀る民あり…。 その民・小野氏は鉱脈を歩く技術者集団だった。 小野氏の出自は和邇氏といい、天鈿女命の裔 の猿女君と結ばれ、各地に猿丸伝承が生まれた。 猿丸太夫は、鉱床を探索しながら山を歩くとき、 いつも謎の呪言を唱えていたという。 「朝日さす夕日輝く木の下に…」と。 鉱床の在り処を示す木とは、ヒカゲノカズラ? 芦屋神社境内には東方を見通せる遥拝所があり、 ここが「朝日さす」地であることを教えるが、 ヒカゲノカズラ伝承は、残っていそうにない。 遥拝所の右奥に写っている木は、何だろう? もし芦屋市の市花・コバノミツバツツジならば、 この野生種にも花崗岩の地質を好む特徴がある。 中央構造線を示す「太陽の道」にある御壼山 (三重県美杉村)にも、謎の呪言が残っている。 「朝日さす夕日輝く御壼山 ツツジの下に黄金千両」
by utoutou
| 2019-09-08 18:02
| 瀬織津姫
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