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黒潮の民〈2〉薮薩(ヤブサツ)の真実

沖縄本島南部玉城の藪薩の御嶽と、北部伊是名島
のヤブサスの御嶽。その御嶽名の類似は、祀った
人々(集団)同士の密な関係を表すと『日本の神々』
などで記したのは、民俗学者の谷川健一氏だった。

ヤブサツの御嶽や、ヤブサスの御嶽は、九州西海岸
の各地に多い「ヤボサ神社」を祀った人々(集団)
が沖縄本島へと南下して、そう命名したのだろうと。

 まさにそれは、アマミキヨの足跡のようも思えた。
 が、語り部はそんな私の思いつきをあっさり覆した。

「この玉城では↓薮薩(ヤブサツ)の御嶽のことを
 ヤファサチの御嶽と呼んだと教わったので、伊是名の
  ヤブサスの御嶽と、完全に関係があるとは思えない」
 
 確かに「ヤファ」と「ヤブ」では似て非なる語感だ。
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ちなみに、
ヤボサ(ヤブサともいう)の神とは、どのような神
 かについての定説はないようだ。が、表記は、矢保佐、
野保佐、矢房、八房などの漢字をあてることが多い。

北は対馬・壱岐島から南は薩摩まで、海岸に近い土地
の藪や、小さな森に祀られることから、藪で祀る霊、
 とか、屋敷神、先祖神、開墾神など、神徳もさまざま。


そう言えば、昨年、甑島(鹿児島県)に旅したとき、
下甑島の集落でお歴々にお話を伺うと、北隣の内浦
集落には矢房大明神が祀られていて、矢房とは八房、
4人の女神の8つの乳房のことだという伝承を聞いた。
※そのときのブログは「「矢房」と薮薩の御嶽
黒潮の民〈2〉薮薩(ヤブサツ)の真実_a0300530_15314079.jpg







4人の姫とは神功皇后と宗像三女神のこと、という
あの甑島の伝承が、最近、にわかに真に迫ってくる。

島や海岸、津々浦々の神社で祀られるのは、航海守護の
女神だろう。琉球王朝時代の聞得大君やオナリ神の信仰
 のように、兄である王や海人の航海安全を守るのは、
 天上からの霊力を授かる「妹神」と、定められていた。

そんなことを
あれこれ考えていた矢先、柳田國男氏が『石神問答』
(明治43年)に記した指摘)に、目から鱗が落ちた。
(以下要約)
〜 壱岐島↓の立石村に加良神山がある。昔、唐船が
難破した折、その船魂を祀り、加良神と呼んだ。
 いわゆる、天妃(ぼさ)これなり 〜
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語り部に連絡して、壱岐に関する柳田説を伝える。
「加良神について、どう思いますか?」と。
「難破船に乗っていた人たちを弔い、船玉神を祀った
  のでしょう。ボサとは船玉神を祀る神女のことでは」

海に命を奪われた人々に「安らかに眠れ」と祈るのが
ヤボサの神なら、ヤファサチの神と神格は似ている。
 ヤファサチとは船が明澪に入り心穏やかになること…。


 



 


by utoutou | 2023-06-20 03:21 | グスク・御嶽 | Trackback | Comments(1)
Commented by utoutou at 2023-06-23 05:32
> 匿名さん
数日沖縄にいまして、慰霊の日を前に昨日戻りました。海神祭が終わって、いよいよ夏本番ですね。私は奥武島の職域ハーリーを見ました。今度は順拝する御願を拝見したいと思います。
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